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【アジア選手権2025特別コラム】井賀孝という男【ガリットチュウ福島】

「IBJJFアジア柔術選手権2025」マスター5黒帯ライトフェザー級
『井賀孝という男』
ガリットチュウ福島による総力取材


私は井賀孝が好きだ。
正直なところ、ギリギリのギリで好きだ。
愛想が悪く、口も悪く、昭和の無骨な男感満載で、いるだけでハラスメント的な男だが(笑)

スパーリングを誘う時、低くしゃがれた声で「〇〇、やるぞぉ」。
悪役商会の俳優さんばりにドスが効いてるところも好きだ。
あと、プロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャー並みに2ヶ月に1回、 頭から流血してるところも好きだ。
(頭やおでこからの流血は、過去4年、私もないし、井賀さん以外に見 たことがない)
結果、井賀孝が好きである。(バリバリの後輩なのに、呼び捨てで申し訳ないです)

なぜこんな井賀さんのことを、みんな好きなのか。
それは簡単だ。
誰よりも道着を着ている時間が長いからだ。

あっ!その前に、井賀さんのプロフィールを紹介します。
ご存知の方もいるかもしれませんが、 本職はカメラマン。スポーツ選手や格闘家、そして山を相手に撮り、本を出版するなどかなり評価が高い。
と同時に柔術をこよなく愛し、トライフォースの重鎮として、 現在はトライフォース高尾、高円寺、狭間のヘッドインストラクターを務めている。
365日、朝から晩まで柔術をやっている人。 今はカメラマンというより、柔術家だと思う。

2021年11月24日。
私がトライフォースに入門した時から、 朝柔術でいつも一緒でかなりの確率でスパーリングしてました。
初めてスパーリングを誘われたのが、

「なんか物足りない顔してるなぁ。よし、俺とやるか」

だった。
粋な誘い方だけど、他の人には失礼かと思った。
井賀さんの印象が強くて、面白くて。
技を聞いたら、しっかり返ってくるし、何より柔術界を冷静に見ていて、
ありがたいことに 「福島は強いよ。普通に優勝するよ」と口癖の様に言っていた。
それが私の大きな自信となった。 いろんな大会に出て、いろんな助言をいただいたが、
井賀さんの言うことは、大体合っていた。

そんな井賀さんとも、トライフォースに入って半年ぐらいで、もうスパーリングはしていない。

私の夢でもあった ラスベガスで開催されるワールドマスターにも2年連続同行してくれた。
というか、井賀さんもワールドマスターにしっかり出場したのだ。
1年目は2回戦敗退。
それでも、井賀さんのファイトスタイルが好きだった。 「絶対に勝つ!勝ってやる!」という気持ちが前に出ていて、気迫と根性で戦っていた。
途中で日本兵に見える時もあった。

満を持して、2人とも自信を持ってリベンジのための2年目のラスベガスへ向かった。
俳優の岡田准一さんや玉木宏さんの出場もあり、
日本人の応援もたくさんあった。
井賀さんへの応援もすごく、日本人三列ぐらいで声援を送っていた。

…が、まさかの24秒で敗れるという結果。
今では笑い話だが、ラスベガスまで来て、24秒で負けるというのは本当に不憫だった。

ただ、本職の仕事はたくさんしていただき、私が優勝した際は、各媒体やメディアでたくさん使っていただいた。
本当に嬉しかった。井賀さんに感謝だ。

そんな井賀さんと、ワールドマスターが終わってからはほとんど話さなくなった。
井賀さんは指導の方が忙しくなり、ご飯も飲みも全く行かなくなった。
ずっと指導しているからだ。

それでも、トライフォース池袋に練習に来て、終わった後もずっと打ち込みを続けている。
井賀さんの家は高尾である。
そこからほぼ毎日トライフォース池袋に来て、自分の練習をし、そして 高尾・高円寺、狭間でインストラクターをやっている。
この前、石井先生がおっしゃっていた。
「井賀さんは人生の5分の3は電車に乗ってるんじゃないか」
あながち間違ってないと思う。

そんな指導が忙しい中、1年10ヶ月ぶりに公式戦IBJJFアジア柔術選手権にエントリーされた。
あの忙しさの中でのエントリーは本当にすごいことだ。

今回、JIU-JITSU NAVIの編集長・新明さんに「井賀孝の総力取材をしたい」とお願いしたところ、音速で 「やるしかないよね」と返事が来た。
みんな心はひとつだった。
結果、みんな井賀孝が好きだった。

いつもナチュラル体重でフェザー級だったのが、練習と指導のやりすぎでガリガリになり、 ナチュラルでライトフェザー級に。
これはさらに可能性が上がる。期待が持てる。

これは……優勝、ありえる!!!

ここからが本当の総力取材。
前日にLINEで 「明日は全力で応援します! そして総力取材させてください!」と伝え、
入り時間を聞いたら、「試合が13時ごろだから、12時ごろに入る」とのこと。

ただ、IBJJFでは「対戦時間より1時間早まる場合がございます」と注意書きがある。
私は絶対に2時間前に入る。

ウォーミングアップをしていたら、すぐに時間が過ぎるし、 本当に早く試合が始まることもあるからだ。

そして当日。
12時ごろ井賀さんと合流し、軽く取材をした。
「昨日はよく眠れたし、体調も万全」とのこと。
ただ、1年10ヶ月で弟子もたくさん増え、久しぶりの公式戦ということで緊張しているそうだ。

固い握手を交わし、試合場へ。
まだアップもしていないらしい。
アップ場はいかなくて、チェックイン → 道着チェック → 体重チェッ クのあと、
フリースペースでアップするスタイル。
(フリースペースは選手しか入ることができない)

無事にチェックイン、道着OK、体重OKと通過し、さぁアップしようと したその時…
なんと試合時間が30分ほど早まり、すぐに列に並ばなければならなく なった。

アップもできぬまま、試合場前へ。
私は考えられない。
初戦のときは体を温めるために、スパーリング1本分汗をかかないと動けない。
これは人それぞれだが、ノーアップで試合なんか考えられない。

井賀さんは、ちょうど1時間前に会場に来たため、ノーアップで試合をすることになる。
大丈夫か? 本当に大丈夫なのか?
嫌な予感がする。

それでも、井賀さんは勇ましい顔をしている。
これはいける、と思った。

椅子に座らず柔軟を始める井賀さん。
でも正直、柔軟だけではアップにはならない。やらないよりマシだけど、やった方がいい。

井賀さんの後ろ姿を見てるだけで、ドキドキしてきた。
本当に失礼な話だが、まるで自分の息子が試合をしてるような感じだ。

そして試合が始まった。
1年10ヶ月ぶり。
あの闘争心バリバリの戦いを見れるのか。嬉しさもあった。

始まってから井賀さんは冷静で、テクニカルに攻めていた。
開始2分くらいまでは、いい感じで攻めていた。
「これはいける。今までの井賀さんとは違う!」
私は心の中で「絶対いける」と思っていた。

が――
3分過ぎたあたりから形勢が逆転。
肩固めの状態からハーフガードに。
アドバンがいつ入ってもおかしくないような状況。
そして、残り20秒で相手にアドバンが入り――ギリギリ、負けてしまった。

厳しくも初戦敗退だった。
本当に、本当に惜しかった。

最初に攻め切れればよかったのに。
自分のことのように悔しかった。
(※私は公式戦23勝1敗。国内負けなし、ポイントも取られたことなし)

井賀さん、とてつもなく悔しそうだ。
そして、ひどく落ち込んでいる。

私は井賀さんに言った。
「井賀さんは、もっと燃えるような試合をしていた。なのに、今日はテクニカルすぎた!」

井賀さんも「そーだな」と認めていた。

漫画『あしたのジョー』で、矢吹ジョーが野生の勘を失い、
ハリマオという野生児と戦って“戦いの本質”を思い出すシーンが頭をよぎる。
井賀さんに勝った相手は決勝まで進み、ギリギリで敗れていた。

これはボタンのかけ違いだ。
井賀さんにも十分、優勝の実力はあった。
いや、普通にやれば、井賀さんが優勝していたと思う。
だから、ほんとに悔しい。自分のことのように悔しい。
(※私は公式戦23勝1敗。国内負けなし、ポイントも取られたことなし)

井賀さん。
もう、俺たちはそんな井賀さんを見たくない。
俺たちの井賀は、そんなんじゃない。

本当の姿を見せてくれ。
魂が熱く燃え上がるような、そんな試合をしてくれ!

あなたが毎日、死ぬほど練習してるのは知っている。
だからこそ、弟子の皆さんもついてきているんだ。
気づいたら私も井賀ファンの1人だ!

次回、なんの試合に出るかわからない
でも私が宣言する

『井賀孝は優勝しかない』

以上。

最後までこのコラムを読んでいただきありがとうございました。
結果、コラムというよりも、井賀さんに送るメッセージとなってしまいました。
一緒にたくさんの汗を流してきたので、ついつい感情が入ってしまいました。
大変申し訳ございません。

引き続き、JIU-JITSU NAVIを宜しくお願いいたします。

福島善成
Text and photo by Yoshinari Fukushima

Instagram 福島善成柔術アカウント

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