井賀孝の写真の話【第5話/全12話】
『カメラが撮るのではない。ひとが撮るのだ』
2001年に初めてブラジルの地を踏んでから、都合12回行くことになる。ブラジルにハマったともいえるし、写真家井賀孝が誕生した地だともいえる。写真家として迷いがなくなったという意味で。それまでは東京で友人を撮っても、ニューヨークで街を撮影しても、こんな写真見たことあるよなあという既視感があった。私だけが撮っているというオリジナリティが感じられない。自分だけのオリジナリティがなければ撮っている意味がない。20代の頃はそれぐらいのことを思っていた。
はたしてブラジルにはオリジナリティがあった。まずブラジルの写真を撮っている者がほとんどいない。加えて、私が撮影するものは格闘技ときている。格闘技が今ほどブームになる少し前のことだ。SNSもない。世界は広く、情報(写真)はまだ貴重だった。なにせ仕事の相手先や家族とファックスで連絡を取り合っていたぐらいだ。一度、雑誌『Number』の編集者と打ち合わせのために国際電話で1時間話したら10万円もかかった。今ならSkypeやメッセンジャーなどを使えば無料だろう。
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